神経症とは何か?

           

『脳細胞や神経系そのものの障害がなくて起こる神経の働きの異常。心理的原因によることが多い』(学研国語辞典より)
これが神経症(ノイローゼ)の定義である。
もっとかみ砕いて言うと、「心で嫌だと思っているのに、無意識でどうしても過度に起きてしまう心の悩み」といったところか。
たとえば、対人恐怖症や社会不安障害(SAD)という症状がある。
人間も動物である以上、他者は恐怖の存在だ。それは誰でも持っている。でも、過度に恐怖や不安感を持ってしまい、がちがちに緊張してしまう。
鬱病も、落ち込みたくはないが、どうしようもなく落ち込んでしまう。
不安神経症も、嫌々でしょうがないのに、ある場面に直面すると、パニックの発作を起こしてしまう。
不眠症は、はやくぐっすり眠りたいのに、神経が高ぶったままで眠れない。
強迫神経症で言えば、執着したくないのに、どうしてもある対象が気になってしょうがない。
どれも、当人にとっては心では嫌だと思っていたり、ばからしいと思っている。でも、それができない。
そして、それが一生、四六時中続いていくという不安がある。
また症状が起きる可能性への不安(予期不安)も強い。

実際、自然によくなっていくことはほとんどない。
なんとも厄介な症状である。
上の定義にもあるように、物理的異常ではないのだ。
だから手術は当然ながらできない。
異常はないのに異常がある。
まったくつかみどころがない。
うつ病にしても脳内伝達物質のバランスの崩れが原因といわれているが、実はそれは結果に過ぎない。
ストレスや抑圧要因によって、脳内伝達物質のバランスが崩壊している。
抗うつ剤は、その結果の部分だけしか働きかけることは出来ない。
だから、ますますうつ病治療が長引いてしまうのだ。

以前に、ひきこもり・ニートの問題を取材したとき、かなり多くの人たちが神経症だった。
だから、むりやり引きこもりをやめさせても、効果がないのだ。いや逆効果になっている惨状をよく眼にしてきた。
不登校児童についても、神経症と診断されていた子供が多かった(社会不安障害等)。
だから、子供が仮に学校に通うことになったとしても、その元の神経症が解決しないことには、彼にとって一生つきまとってしまう。
彼らの親への言い分は「自分の心をわかってくれない」。
例外なくそうだった。
まさに神経症に陥った当人は孤独で苦しみと闘い続けなければならない。
それすら疲れ果ててぼろぼろになった人にもたくさん会った。
かつてばりばりに働いていたということを聞くと、誰もが意外に思う人だ。
逆に、ばりばりに仕事に燃えていた時を知っている人が、今の彼を知るととても信じられないだろう。

神経症は何なのか、私はまずそれに興味を持った。
そして、なぜ神経症になってしまうのか?
当人や家族にとって重大な関心事は、果たして治るものなのか?
たくさんの人に会っていくうちに、薬害という問題にもぶちあたった。
神経症の人は、治らないまま、どういう人生を送らざるを得ないのか?
それらをレポートして行きたいと思う。

神経症の種類と概要

平たく言えば、神経症は心の悩みの強化版である。
悩んだことのない人間はいない。
だから、誰にでも陥る罠であるともいえる。
アメリカの有名なハワード・ヒューズという富豪がいた。
『アビエイター』というマーティン・スコセッシ監督 レオナルド・ディカプリオ主演の映画でも知っている方も多いと思う。
彼は強迫神経症(強迫性障害)の一種で、異常な潔癖症になり、表舞台から去った。
成功者だろうが、金持ちだろうが、どんな人でもなる可能性がある証拠だろう。

さて、心の悩みが進行すると神経症と呼ばれる状態になる。
だが、神経症となると、その実態を知っている人は遙かに少なくなる。
この神経症の段階が、まともな社会生活を送れるか、送れないかのボーダーラインといえるだろう。
少なくとも働くことができていても、仕事に燃えている人は誰もいなかった。
常に症状をかばいながら、ばれないようにしながら、またはできるだけ人に会わないよう気を遣い、仕事以上に疲れ果てるという。

神経症といっても、様々な種類がある(統合失調症は神経症ではないので入れていません)
日本の神経症の二本柱といえるのが、対人恐怖症と鬱病だ。

鬱病はすっかり社会的に認知されている。とはいえ、一般でいう「おれは鬱気味」という意味とは遙かに次元が違う。
鬱気味で自殺する人はまずいない。気分が優れないといった程度のものだ。
プチ鬱という言葉も出てきているが、日常の中で落ち込んでるレベルだ。
しかし、鬱病はつねに死と隣り合わせだ。心の風邪といった生やさしいものではない。
CMなどで鬱病は、だいぶ社会認知されてきて、周りの家族もだいぶそういう意味では助かっているかもしれない。
だが、症状回復については茨の道である。
特に薬害という問題に直面しやすいが、これについては後述する。
医原病という問題も起きてきている。
うつ病こそ精神医学界の問題が一番あらわれる症状だろう。

日本に特に多いのが対人恐怖症である。社会不安障害と最近では言われている。はっきりものを言う文化の欧米人はなかなかなりにくい(違う神経症で苦しむことになるが)
対人恐怖症といっても、視線恐怖症・赤面恐怖症・自己臭恐怖症・身体醜形障害という風に細かく分類される。
さらに細かくすると、視線恐怖症には脇見恐怖症や自己視線恐怖症などと出てくる。
不登校に陥る子供やひきこもり生活をせざるを得ない人も、重い軽いはあるが対人恐怖症気味である。
一番、悩んでいることを隠しておきたい症状だという。
だから、一見悩んでいないように見える人でも、この症状で苦しんでいるということはよくある。
まわりに悟られないように本人は努力しているため、周囲の人は案外気づかないことが多い、

他の有名な症状を言えば、 不安神経症(パニック障害)、 強迫神経症、重度の不眠症だろう。
また女性に多い拒食・過食を繰り返す摂食障害も有名だ。

自律神経失調症も忘れてはならないだろう。
この自律神経は、交感神経と副交感神経があり、神経症になる人は例外なくバランスを壊している。
神経症の症状名は、医者やカウンセラーによって、全く違った診断が為される。
症状名だけに振り回されるのではなく、しっかり自分がおかれている症状を把握することが必要になるだろう。

どの症状も仕事や学校生活に支障を来し、自力では治すことが不可能なことが多い。
とても怖い症状なのである。そして、日本をはじめとする先進諸国で爆発的に増えている。
だが、表に出る数が増えてきているので、昔から多くの人が誰にもいえずに悩んでいたことは確かだ。
原因不明の自殺者の多くが何らかの神経症にかかっていたことが多いかもしれない。

神経症をうまく利用していた人もたくさんいる。
芸術家に圧倒的に多い。
代表的なのは夏目漱石だ。
だから、あれほど繊細な文章を書くことができ、鋭い観察眼を持っているのだろう。
太宰治も有名だ。
作家は文章で表現するため、わかりやすいということもある。
ほかの芸術分野の人もたくさんいたに違いない。
だが、やはり神経症になっていていいことはない。
なってしまった人は、神経症対策が人生のすべてに近くなる。

(YUTAKA MATSUZAWA)

 

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